高山病とダイアモックス (2006/10/10)
最近、診察中に患者さんから『高山病の予防に緑内障の飲み薬が効くという話しですが、先生ご存知ですか?』と聞かれました。緑内障の飲み薬と言うことですぐに『ダイアモックス』の名前が頭に浮かびました。でもダイアモックスを内服するとトイレが近くなるので、山登りの場合はかえって困るのではないかと思いましたが、勉強不足で『高山病予防に効く』と言うことは知らず、調べてみますと言う事になりました。
日本山岳会医療委員会のホームページを見ますと、『山 医療コラム』 691号 『アセタゾールアミド(ダイアモックス)についての理解』(中島道郎氏)が載っていました。ダイアモックスの薬理作用や高山病に対する効果、急性高山病に対する標準的な用法用量、ダイアモックスにまつわる言い伝え、筆者注が載っており、参考になりました。
また、680号 高山病予防薬の是非(村上和子)、681号 高山病予防と体力トレーニング(浅野勝巳)などの記事もあります。山登りや高山病に関心のある方は是非ご覧になって下さい。
日本登山医学会のホームページにも、ちょっと役立つQ&A 「高山病って何?」「ダイアモックスって何?」が載っています。
確かにダイアモックスは、高山病の予防や軽症の高山病に有効のようですが、万能ではないようです。高所では水分の補給も大切なようです。やはり、体調に異変を感じた場合は無理をせず、早めに対応して下山する勇気が必要なようです。実際の服用に関しては、高山病に詳しく、治療経験のある医師に相談して、服用するのが良いようです。
但し、高山病予防は保険適応になりませんので、自費になると思います。
ちなみに、ダイアモックスは炭酸脱水素酵素阻害作用により眼内の毛様体における房水産生を抑制して、眼圧を低下させます。最近ではダイアモックスの点眼版が発売されており、また各種の緑内障の点眼薬が開発されたため、以前ほど内服は使用されなくなりました。
眼精疲労について (2006/9/12)
眼精疲労とは、視作業により生ずる病的な眼疲労のことで、一般的には疲れを感じない程度の軽作業でも疲れを感じてしまい、休息しても症状が改善しない疲れで、単なる眼疲労とは区別されます。症状は、目の重圧感、眼痛、頭痛、吐き気、視力障害など様々です。原因には視器要因、心的要因、環境要因などがありますが、その発症には複数の要因が関与していることが多いようです。最近では、パソコンや携帯電話などのVDT作業の増加に伴うドライアイによる眼精疲労が大きな問題になっています。また、ゲーム機の普及により小児期にも眼精疲労が見られます。
眼精疲労は、原因により次のように分類されます。
1.調節性眼精疲労:遠視、乱視、老視、調節麻痺、眼鏡・コンタクトレンズの低矯正や過矯正
2.筋性眼精疲労:斜視、外眼筋麻痺、輻湊異常
3.症候性眼精疲労:ドライアイ、緑内障、角膜炎、結膜炎、眼以外の疾患(全身衰弱、慢性疲労、自律神経失調、
更年期障害、鼻・副鼻腔疾患、むち打ち症など)
4.不等像性眼精疲労:不同視の矯正により生じる不等像視
5.神経性眼精疲労:心身症、うつ病、神経症など
眼精疲労には複数の原因が関与しており、原因の特定が難しい場合も多いようですが、問診は非常に大切で、特に心的要因や環境要因を明らかにすることが重要です。
1.発症の時期と一致するあるいは発症の引き金になったと考えられる環境の変化や心理的変化の有無。
2.視作業の種類や継続時間と自覚症状。
3.眼鏡やコンタクトレンズの使用状況と自覚症状。
4.周囲の明るさや気温、湿度、作業時の姿勢などの作業環境状況。
5.環境や人間関係などにおける心理的なストレスの有無。
眼科受診時には、以上の項目についても、担当医に正確に伝えることが大切です。
眼精疲労の治療は、基本的には眼精疲労を引き起こしている原因を取り除くことです。様々な検査により明らかになった原因に対しては、次のような対策をとります。
1.遠視、乱視が原因の場合:若年者では、作業距離に適した眼鏡を処方する。
中高年者では、遠見時も遠視の眼鏡を処方する。
2.斜位が原因の場合:プリズムレンズを装用する。
3.近視で近見時に眼精疲労を訴える場合:低矯正のレンズに変更する。
4.老視などの調節異常が原因の場合:用途に合わせた眼鏡を処方する。
目的に応じて二重焦点レンズや遠方重視累進屈折力レンズ、中近累進屈折力レンズを使用する。
5.緑内障が原因の場合:緑内障の病態に適した治療を行う。
6.ドライアイが原因の場合:軽症例では人工涙液、ヒアルロン酸製剤を点眼し、重症例では涙点プラグの使用を
検討する。作業環境についても必要に応じて改善策を講じる。
VDT作業中は、1時間に5〜10分休憩を取ることが望ましい。
7.心的要因が原因の場合:精神神経疾患、心身症、神経症などが疑われる場合、患者さんの訴えを良く聞き、
必要に応じて精神科や心療内科を紹介する。
眼精疲労の主な治療薬には、ビタミンB12点眼薬、調節麻痺点眼薬、ビタミンB複合内服薬等があります。
参考文献:キッセイ カレイドスコープ 2006 No.30 日本医大武蔵小杉病院眼科 小原澤英彰
マイボーム腺炎(瞼板腺炎) (2006/6/25)
マイボーム腺は、上下の眼瞼の瞼板に存在し、涙の油層を形成する脂質を分泌します。睫毛より眼球側の眼瞼縁に1列に開口しています。
眼瞼の病気には、急性化膿性の炎症でいわゆる『ものもらい』と言われる麦粒腫やマイボーム腺の慢性の肉芽性炎症の霰粒腫があります。最近、このマイボーム腺の機能異常がドライアイや術後の感染症発症に関っていると言われており、注目されています。また、マイボーム腺機能不全とも言われていますが、今回は細菌感染を中心とした炎症を伴うマイボーム腺炎についてお話します。
現在のところ、マイボーム腺炎はマイボーム腺脂質の分泌が低下している閉塞性マイボーム腺炎と分泌が亢進している脂漏性マイボーム腺炎の2つに分類されます。
閉塞性マイボーム腺炎は、開口部には突起物や角化組織によるび慢性の閉塞がみられ、瞼縁は充血しています。瞼を圧迫すると粘度の高い分泌物が圧出され、時には白い固形物が練り歯磨き粉状に出て来る時もあります。多くの例で、涙の油層の形成が困難になり充血や異物感などのドライアイの症状を伴うことがあります。
治療法として、まず行うべきことは眼瞼縁の清拭です。具体的な方法は、蒸しタオルなどで眼瞼を温め、融点の高くなった脂質を押し出しやすくして、マイボーム腺の走行に沿って眼瞼マッサージを行って内容物を排出させます。つまり、上眼瞼の場合は上から下に、下眼瞼の場合は下から上に向かって、眼瞼マッサージを行います。その後、市販されているベビークレンジンなどのマイルドな消毒薬を含んだ綿花で瞼縁の排出物を拭き取り、最後に抗菌剤の眼軟膏を塗布します。重症度にあわせて毎日1〜4回励行し、繰り返し行います。状態によっては、特殊な器具で眼瞼を圧迫して、内容物を圧出したり、抗菌剤の点眼や内服も行います。
脂漏性マイボーム腺炎は、全身性の脂漏性皮膚炎を高率に合併していて、日本人には少なく、マイボーム腺からの脂質分泌が亢進した状態です。その病態はまだ不明ですが、ホルモンバランスの異常も指摘されています。過剰な脂質が瞼縁で涙と混じって泡を形成している場合もあります。また質的な異常も指摘されており、角膜上皮炎を伴い、多くの例で灼熱感を訴えます。
治療法は、テトラサイクリン系の抗生剤の内服を行いますが、症状の改善には2〜3ヶ月必要と言われています。
参考文献:新しい眼科 17:52〜55,2000年 愛媛大学眼科 山口昌彦